ファン・ゴッホ 『花咲くアーモンドの枝』

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「この絵は、ずっと我が家の子ども部屋にありました」と語った笑顔が忘れられない。
フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-90)の弟テオの曾孫が、テレビのインタビューで答えた時だ。その顔は曾祖父のテオよりもゴッホに似ていたことが、私には一段とうれしい。
彼は現在、ゴッホ財団の理事長をしている。
この絵とは、ゴッホがピストル自殺する5ヶ月前に描いた『花咲くアーモンドの枝』(1890)だ。この枝はゴッホ家を結ぶ枝といっても過言ではない。
1890年1月、ゴッホはアルル近郊のサン・レミの精神病院に入院中、テオの妻ヨハンナから一通の手紙をもらう。そこには「テオと相談して、私たちの生まれてくる子に、(あなたと同じ)フィンセントという名前を付けようと思っています。きっと男の子に違いありません」と書かれていた。
夫のテオは兄のゴッホに生活費を仕送りし、肝心の絵は全く売れない。それだけではない。自分の耳を切り落とし、その後、精神病院に入院しているのだ。その人の名前を生まれてくる子どもにつけようとする母親がいるだろうか。
しかし、ゴッホとテオ、そしてヨハンナが交換した手紙を読んでいくと、そのような疑問も消えていく。3人の心の交流は実に愛情に満ちているのだ。
そして、夫妻には間もなく、本当に男の子が生まれ、フィンセントと名付けられた。そこでゴッホは、生まれてきた子どものために一枚の絵を描く。それが、『花咲くアーモンドの枝』だ。
なぜ、ゴッホは子ども向きの絵ではなく、花の絵、それも、アーモンドの花だったのだろうか。
この花は1月末から2月ごろに咲く。寒さに負けず、凛として、春や夏の花よりもよっぽど強い花だ。日本では桜よりも梅にあたるだろうか。先日も湯島天神の梅を観ながら、アーモンドの花を想像してみた。
f0104004_2018236.jpgゴッホはこの2年前の同じ時期、寒いパリから南仏の明るい光を求めて、アルルへ来たものの、雪が降るほど寒かった。そのため、室内で、一輪のアーモンドの花、『グラスの中のアーモンドの花』を描く。彼にとってこの花は、春を待つ希望の花に違いない。
『花咲くアーモンドの枝』を描いたころ、ゴッホは精神的にかなり重い症状であった。そのような中、同じ名前の甥のために、必死でキャンバスに向かったのだろう。
精神病院時代以後は、それまでの鮮やかな色彩や強い筆使いに加えて、ゴッホ特有の「うねり」も見せている。
しかし、この絵には激しさや不安が全くない。生命感に溢れ、穏やかさと内に秘めた強さの両方を持つ。何と、愛情に満ちた絵だろうか。花びらは一枚一枚、丹念に描かれ、みずみずしい。背景には澄み切った冬空の青が絶妙で、未来を予感するのだ。
ゴッホ自身、忍耐と訓練でこの作品を描いたと語っているように、精神的な錯乱の中の作品とは思えない。  
生まれてきた甥に、このアーモンドの花のように、強くたくましく育ってほしいという祈りで、集中力を保ったのだろう。
ゴッホの絵は生前、一枚しか売れなかったともいわれている。どうして、今日のような世界的な画家になれたのだろうか。
それは、ゴッホとテオの死後、ヨハンナが彼の絵を広めていくのである。もし彼女がいなければ、おそらく、私たちはゴッホを知ることができなかっただろう。そして彼女の意志は、その息子、孫、曾孫(彼もゴッホと同姓同名)へと受け継がれていく。
いつか、春を待ちわびる本物のアーモンドの花を見ながら、ゴッホ家の温かなストーリーを再び思い出してみたい。


<追記>
私はこの絵のストーリーも、少し浮世絵の影響を感じさせる作品じたいも大好きで、愛用のマグカップもこの作品ですし、いくつもの画集でこの作品を見てきました。
しかしファン・ゴッホ美術館で、この絵の前に立った時、それは今まで見た数々の印刷とは違っていたのです。同じだけれど、違う。。。。。全く違う!!
この背景の繊細で優しく、瑞々しい水色、透き通る水色は、どんな印刷とも違っていました。
印刷では絶対に表せない色。。。。それを1番実感したのは、この作品の「水色」です。
もし、このブログを見てくださった方で、アムステルダムに行くことがありましたら、ぜひ、この色を見ていただけたら・・・と思います。本当に素敵な色なのです。

☆『花咲くアーモンドの枝』 Almond blossom
1890年 サン・レミ 油彩 ゴッホ美術館
☆『グラスの中のアーモンドの花』 Almond blossom in the glass
1888年 アルル 油彩 ゴッホ美術館
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by van__gogh | 2006-05-12 22:45 | ファン・ゴッホ | Trackback | Comments(6)
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Commented by kiyoko_ki at 2014-05-08 09:35
はじめまして。この絵のことを検索していて、こちらにたどり着きました。
今日の、私のブログに、この絵について、少しだけ書いているのですが、
こちらの記事をリンクさせて頂いても構いませんでしょうか?
詳しく書かれているので、読ませていただいて、興味深かったです。
Commented by van__gogh at 2014-05-11 19:09
kiyoko_kiさん
私のブログを読んでくださって、コメントをありがとうございます。
kiyoko_kiさんのブログも読まさせていただきました。お母様、素敵ですね!
リンクの件、よろしかったら、どうぞ。
ブログにも書きましたが、実物の絵の背景の水色は、画像や言葉で表せないほど、
素敵な色でした!
Commented by kiyoko_ki at 2014-06-10 13:53
遅くなりましたが、リンクを貼らせて頂きました。
実物の背景の水色が素晴らしいのですね!
その後、母に会いましたが、満足できた旅のようでした。

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Commented by van__gogh at 2014-06-14 01:12
kiyoko_kiさん
私のブログを紹介していただき、ありがとうございました。
お母様、満足の旅でよかったですね!
kiyoko_kiさんのお庭のお花、とても綺麗ですね。鹿児島が大好きなので、楽しませていただきました。
Commented by watchtouch at 2016-03-11 09:58
初めまして
今日3月11日の記念樹がアーモンドの木と知って
アーモンドの木を検索中
あなたさまのブログに出会いました
この絵に ゴッホに寄せる深い思いに感銘を受けました

私の今日のブログで
http://watchtouch.exblog.jp/25396348/
ご紹介させて頂ければありがたく
ご連絡を差し上げた次第です

よきブログに出会え うれしく一日を始められます
ありがとうございます

東京は冷たい雨の朝ですが
どうぞ温かくお過ごし下さいますように
Commented by van__gogh at 2016-03-12 21:11
watchtouchさん
うれしいコメントをありがとうございます。
3月11日の記念樹がアーモンドの木なのですね。
2月ごろに咲く花とばかり思っていました。
それから、アーモンドは真っ白な花かと思っていたのですが、
watchtouchさんのブログを見させていただいて、ピンクが
入ったすごくかわいらしいお花なのですね。
いつか本物のアーモンドの花を見ながら、ゴッホ家のあたたかな
ストーリーを思い出してみたいです。
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